無事隙間から脱出できたのはそれから約15分ほど
格闘した後のことだった。
「お陰で疲れた。休憩する。」
「ハァイ。」
直前まで挟まっただの脱げだのというやりとりをやっていた岩の
陰に潜む形で腰を下ろし、ため息をついている主人の頭の上に
ぽこん、と乗っかった。
「ついでにお弁当にしちゃいましょうよー」
「ん…あぁ。」
提案を受け入れたらしくちょっと離れたところに
投げ出されてしまっていた荷物を手繰り寄せる。
そのために身を乗り出す体勢になった主の動作に合わせて
思わず髪の毛につかまったら「あんまり変にいじるなよ」と
注意されてしまった。
ひょいっと頭上に差し出されたパンの欠片を受け取る。
主はどうやら食事を単なる栄養補給くらいにしか考えていないらしく
大抵いつも同じものを食べている。
特に出先で食べるときは持ち運びのことしか考慮しておらず
その結果、いつもパンである。
たまに違うものにしよう、と提案すると
あっさり違うパンにしたりするので
特別それが好きというわけではないらしい。
栄養偏らないのかなぁ、とちょっと心配になる。
「よく考えたらお前ゴーストなのに物食べれるんだよな…」
「うん。」
ゴーストクオリティです、と言ったら
既に興味が逸れている声で「ああそう」と答えられた。
投げやりだなあ、と内心膨れっ面をしかけたが
その前に重大なことを思い出した。
なんだか随分前のことのようで忘れかけていたけれど。
「ご主人様!」
張り切ってご報告しなくては。
頭から飛び降りて、くるりと旋回して向き直る。
主はまだ食事中だったらしく半分ほどにサイズダウンしたパンを
手にしたままこちらを見ていた。
「さっきあっちの方の偵察にいってたんですけどネ。」
「ああ。そういえばすっ飛んできた時、確かにあっちからだったな。」
「です!もうボクびっくりしちゃって
思わずすっ飛んで帰ってきちゃいましたよ。」
「…できればもう少し落ち着いて欲しいところだけどな。」
アハハハーと笑って誤魔化したら、
ちょっと嫌そうに目を細められたけど、結局一言「で?」と言って
先を促された。
「なんかですね、奥のほうだけど集落みたいなのがありました!」
「…本当か?」
「ハイっ。」
情報提供できたことが嬉しくて元気にそう返事をしたら
主は珍しく驚いた表情のまま2,3度瞬きをして
「たまには役に立つな。」
と感心したように言った。
「“たまには”は余計じゃないカナァ。」
「いや必要だろう。」
「えーじゃぁ、これでどうですか?」
「何。」
「確かに集落はあるんですけどー…
いっぱいカートマイナーがいましたよっ!」
「……あー……。」
苦悩とも脱力ともつかない声を上げたあと、
ここは厄介ごとが多いな…と疲れたように呟いた。
カートマイナーというとこの近辺を持ち場にしている冒険者なら
“要注意モンスター”として名を知らない者はいないとも言われる
モンスターのことだった。
そいつが出会い頭に繰り出す必殺の一撃をまともに浴びせられると
一瞬で意識がブラックアウトする者も多いらしい。
防御関連が心許ないメイジのエスペラントも
撃沈する組であることを否定できない。
で、訂正はなしですか?と更に問うてみると
「よし分かった。」
「おぉー。」
「…“たまに”役に立つ、に訂正しよう。」
「ソレ変わってないです!!」
そんな誤字修正みたいなレベルで変えて欲しかったわけじゃないんですが
と、こちらは真剣に言ってるというのに主と来たら、
小さく笑って「冗談だ」と言った後に食事を再開してしまった。
もー!と、今度こそ怒ってしまったけれど
主は何が面白いのか笑いを堪えながら食事を続けている。
しまいには「食べれないからちょっと黙ってろ」と言われた。
結局のところ主の意向は絶対なわけで、抵抗するにも限度がある。
仕方なく、食事が終わるまで大人しくしていることにした。
それにしても、随分遠くまできたなぁ…と思う。
ウルガに初めて来た時にも、その先の古代エルフの森や
眠れる森に来た時も同じように思ったものだけど
それよりもまた更に奥地へと来てしまったのだ。
何時の日か、この大陸を自由に、
縦横無尽に行き来できるようになる時も来るのかもしれない。
「ねぇ、ご主人様。」
「ん。」
声を掛けてから、黙っていろと言われていたことを思い出して
あ、と思ったけれど。
特にお咎めもなく返事が返ってきたのでそのまま話してしまうことにした。
「遠くまで来ましたネ。」
「…ん。」
「あんまり聞いてない?」
「ん。」
普通に肯定されて再び怒りたい気持ちになったけれど。
でもまぁいいかぁ…なんて思ってしまう。
だって何ていうか結局そんな主が大好きだなぁと思うから。
だから……だから。
「ボクはご主人様に会えて嬉しいデス。」
「…。」
「一緒にいてもらえることが嬉しいデス。
ボクは……。」
そこで振り向いた。
ほんとに聞いてなかったら悲しいなぁ、と思ったから。
でも大丈夫だった。聞いてないことはなかった。
いや寧ろ逆。
食事を続けながら何となく聞いていたんだろうけれど…。
振り向くとそこには、きょとんとした表情で
パンをくわえたまま固まっている主人の姿があって
思わず盛大に噴出してしまった。
その反応で我に返ったのか気まずそうに視線を逸らされる。
でも。
…でもまだ大事なことを言ってない。
そっぽを向いている主の肩に飛び乗って。
「ボクは今、とても幸せです。」
「……。」
主人は何も言わなかったけれど、食事も終わったというのに、
暫くの間、立てた両膝の間に額を押し付けるような体勢で蹲ったまま
動こうとしなかった。
どうもこの人は、照れると何も言えなくなるんだよなぁ、
なんて思ったらちょっと勝ったような気になって、嬉しくなった。
途中でご主人様を変えることになってしまった自分だけど
別にこうなったことを後悔なんてしていない。
寧ろ良かったのかもとすら思ってる。
でも。
でもやっぱり1つだけ、残っている後悔がある。
言っておけばよかったなぁと…
あなたと居た間、とても幸せでしたって。
ボクはとても幸せでした、って。
ずっと一緒にいて欲しいなんて言わないし、言えないし。
でも、だからこそ覚えていて欲しい。
少しの間でも、一緒にいてもらえる間が凄く幸せだったって。
そんなやつを連れてたこともあるなぁって覚えてもらえていれば嬉しい。
元気にしてるかなぁ、あの、前のご主人様。
……あと。
…このご主人様は…
「ねーまだ行かないのー?」
「うるさいっ。」
あーだめだこりゃ。
今日は休憩時間が長くなりそう。
おわり。
このラストシーンが書きたいがために書きはじめた筈が…
長い長い、どうなったんですか何が起こったんですか。
でも何か楽しかったです。ジェントルもエスペラントも
軽快に動いてくれるから執筆はスムーズでした。
でもちょっと制御不能でした(笑
ところでフォームを設置するほどじゃないんですが
お読みいただいている方、もしよかったらアンケートを…。
メイジ兄弟がアイシャ大陸に来る前のお話しを書こうと思っているのですが
どの程度のシリアス度にするかで悩んでいます。
1.個人の事情レベル(住みにくいので逃げて来た程度)
2.村の事情レベル(人間の村にダークエルフが馴染めない程度)
3.大陸の事情レベル(伝承や宿命に縛られている状態)
色々パターンを考えたら悩んでしまいましたので
これがいいかも、というのがあったらこっそりフォームとか
拍手とかコメントとか、お好きなところからご回答下さい^^
どれになってもエスペラントの様子からすると
結構重くなるとは思いますが(笑
そのお話しではエスペラントの苦悩とサージェスの脆さを描きたいなぁ…
とかとか、思っているところです。
ちょこっと書くだけだった筈の物語に
長々とお付き合いありがとうございました!
2008年03月19日
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